最近、マーケティングの世界で「インクリメンタリティ」という言葉を耳にする機会が増えました。
施策の効果をより正確に把握したい、というニーズが高まる中で、この考え方が注目されているようです。
その割に、それをどう測るべきか?について、原則論が置き去りになったまま、「あの指標を使うべき」とか、「アンケートで何となく」とか、理論的根拠の無い発想と議論が展開されることが少なくないように思います。
自分自身の理解度向上のためにも少しまとめておきたい。

1. なぜ今「インクリメンタリティ」なのか?
従来のマーケティング効果測定、例えばアトリビューション分析では、「どの広告がコンバージョンに貢献したか?」といった関連性(相関関係)を見るのが一般的でした。
しかし、「その広告が本当にコンバージョンを引き起こしたのか?」という問いに答えるのは、実は簡単ではありません。
もしかしたら、広告がなくてもコンバージョンしていたかもしれない。
あるいは、他の要因が影響していたかもしれない。
こうした疑問に応え、「施策が純粋にどれだけ成果を上乗せしたのか?」、つまり**原因と結果の関係(因果関係)**を明らかにしようとするのが、インクリメンタルマーケティングの基本的な考え方です。
2. その考え方、実は「因果推論」
この「原因と結果の関係」を突き詰めようとするアプローチ、これは近年データサイエンス分野で非常に注目されている「因果推論(Causal Inference)」の考え方そのものです。
因果推論は、「もし〇〇がなかったら、どうなっていただろうか?(反事実)」という問いを立て、統計的な手法や実験デザインを用いて、ある介入(マーケティング施策など)が結果(売上など)に与えた真の影響を推定しようとします。
インクリメンタルマーケティングは、この因果推論のフレームワークをマーケティング領域に応用したもの、と捉えるだけで事足りそうです。(どっかから怒られそう)
単に「関連がありそう」というレベルを超えて、「施策Aが原因で、これだけの成果Yが増えた」ということを、より確からしく言えるようにするための方法論、というわけです。
3. 主なアプローチ
では、この「インクリメンタルな効果」を具体的にどうやって測定するのか?
大きく分けて、2つのアプローチがあります。
- 実験的アプローチ(RCT:ランダム化比較試験)
これは、いわゆる「A/Bテスト」に代表される方法で、有名ですね。
対象者をランダムに2つのグループ(施策を行うグループと行わないグループ)に分け、その結果を比較することで、施策の純粋な効果を測定します。
ランダム化によって、他の要因の影響を(理論上は)排除できるため、因果関係を特定する上では最も信頼性の高い「ゴールドスタンダード」とされています。
- 準実験・統計解析的アプローチ
RCTが最も妥当な手法ですが、常に厳密に実現ができるとは限りません。
コストや倫理的な問題、技術的・ビジネス的な制約がある場合も多いです。
そのような場合に用いられるのが、このアプローチです。
準実験
ランダム化はできないものの、何らかの自然な状況や制度変更などを利用して、実験に近い状況を作り出して分析します。
例えば、特定の地域だけで施策を実施し、他の地域と比較する「ジオリフト(Geo-Experiment / Geo-Lift)」などがこれにあたります。
統計解析
過去のデータ(観察データ)を用いて、統計モデルによって施策の効果を推定しようとします。
マーケティングミックスモデリング(MMM)を因果推論の視点で活用したり、傾向スコアマッチング(PSM)や差分の差分法(DiD)といった計量経済学的な手法を用いたりします。
これらの手法は、実験ができない状況でも示唆を与えてくれますが、「分析の前提条件(仮定)が満たされているか」を慎重に検討する必要があります。これらのアプローチは万能ではなく、それぞれにメリット・デメリット、適用できる場面があります。
目的や状況に応じて適切な方法を選ぶことが重要になります。
まとめ
今回は、マーケティングの「インクリメンタリティ」が注目される背景と、その核心にある「因果推論」の考え方、そして主な測定アプローチの概要について見てきました。
次回は、これらのアプローチを実際に導入・活用していく上で、どのような課題があり、どう乗り越えていけばよいのか、より実践的な側面に焦点を当てて整理してみようかなと思います。
昨今はMMMやUpliftModeling など、この領域に関係する技術革新がとても進んでいるので、マーケティングの実践領域でもしっかり活用していきたいですね。